読むだけでリバウンドしない。 その5

読むだけでリバウンドしない。 その5

この記事は「読むだけでリバウンドしない方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。

読むだけでリバウンドしない。 その5

読むだけでリバウンドしない。 その1
読むだけでリバウンドしない方法の最初の記事です。読み方は次に指示があるまで、小説を読むような調子で読んでください。気軽に読み進め...

読むだけでリバウンドしない。 その4」からの続きです。

  • この先はまた、しばらく気楽に読んでください。

まさに僕の立場は絶体絶命である。

二人の状態からすれば、いつ襲いかかってきても不思議じゃないと思った。宇宙生物の大腸菌に体を乗っ取られたおじちゃんと光、僕の想像力はどんなときでもたくましかった。

足が震え、奥歯がかちかちと悲鳴をあげている。

「卓君、ダーリンのところへ行ってみようよ」

おじちゃんがそう言って、近づいてくる。僕のほうは身動きさえもできずにいた。そんな僕を尻目に、おじちゃんはさっさと光の元へ歩み寄った。

「光ちゃん、おじちゃんもフュースの排せつ物を食べたよ。これでダーリンと話ができるんだ」

やがて二人はハウスを出た。僕はたった一人で小屋の中に取り残された。しかもなんと、不思議なことなんだけど襲われることもなく無事だった。

とにかく落ち着こうと思い、大きく胸を揺らしながら息を吸い込んだ。出入り口のドアは開いたままである。それのおかげで恐怖心は幾分やわらいでいたが、油断は禁物だった。二人の行動を十分に監視する必要があった。

すぐさま出口に張りついて、そこから外の様子をうかがうことにした。

おじちゃんと光のやつが檻の前でしゃがんでいる。ちょうど井戸端会議のような格好だった。しかもダーリンまでが澄ました顔で、それに混じっていたんだから、なんとも不思議な光景である。

どう見ても、みんなで楽しくおしゃべりをしているとしか、思えなかった。光の話したことは本当だったのだろうか――そう考えると焦りのために、冷たい汗が幾筋もにじみ出た。

おじちゃんまでがダーリンのことばを理解してしまったら、僕だけがあっさりと取り残される。そんな未来をのぞき見て、がく然とした。

人類の進歩は、とてつもなくはやい。油断をすると子どもでさえも、すぐに取り残される。若いから新しいわけではなくて、進歩するから新鮮さを失わない。

前進する気持ちがなくなったら、誰もが手遅れになる。

僕の場合、光においていかれるのはしかたがないにしても、おじちゃんの背中を見ることだけは、絶対に避けたかった。そうならないための手段は、たった一つである。

決心してドアを閉めた。そのあと急いで、奥の部屋に足を向けた。フュースのウンコが詰まった容器の前に立った。だけどそのとき窓が開いてることに気づいて、はっとする。

すばやく壁際に移動して、カーテンを引いた。

――ふぅ、危なかった。

やっぱり誰にも見られたくないと思う。ウンコに手を出すなんて、最低だ。思い直してもう一度、容器の前で直立不動、今度こそふたを開けた。

すると一気に甘い香りが解き放たれて、つかの間の放心状態を味わった。頭を振って自分を取り戻す。気持ちを落ち着かせるために、深い呼吸を心がけた。

そのとたん、まぶたの裏で数々の思い出が浮かんでは消える。それを遮るかのように、僕は右手に力を込めた。指先の神経はしびれたままで、フュースのウンコ目指して動き出す。

人さし指をきりりと伸ばし、その指をウンコの海へ沈めると、経験したことのある感触が、皮膚の表面に広がった。

確かに、この触り心地には覚えがある。

トイレでお尻をふいたとき、時たま失敗することがあるんだけど、あのときとまったく同じ手応えが指先にあった。

こうなったらもう後には引けず、ウンコをすくった指を口もとにあてがったあと、心を決めてほんの少しなめてみた。

はっきり言うが、相当うまい。

あとはそのままのどの奥に詰め込んで、息ができないほど、むさぼり食った。そんなとき、いきなり出入り口のドアが開いてどきりとした。

向こうから例の二人組が、じっと僕をにらんでいる。僕は慌てて容器のふたを閉じ、二人のほうに歩み寄った。

おじちゃんは肩を落としたままで、うつむいている。僕のほうはカウンターの上に両手をついて、やや目を伏せながら、愛想笑いを繰り返した。

どうやら僕の行為におじちゃんが気づいた様子は、なさそうである。それだけでも救いがあったし、できればウンコに手を出したことは、このまま誰にも知られたくないとひたすら願っていた。

そんな円満な考え方をあざ笑うかのように、突然こめかみの辺りに違和感が走る。異様な気配を感じ取った僕の体は、すばやく硬直した。

まるで警視庁第一課のような視線がそこにはあった。

光のやつがじっとこちらをにらんでいる。

――こいつには感づかれたかもしれない。まったく、計り知れないやつだ。

「僕にはダーリンの声が聞こえなかったよ。だめだったんだ」

おじちゃんの悔しがりようは、かわいそうなくらいである。ただし口もとには、いまだにフュースのウンコがこびりついたままだ。それを見ていると、僕の想像は容赦なく膨らんだ。

皮膚に付着したウンコはやがて本性を表し始め、ウンコらしいにおいに目覚める恐れが多分にある。そうなったらハエのたぐいがほうっておくはずがなかったし、これだけ甘いウンコならば彼らにとっても珍味のはずで、口コミで広がって、行列のできるウンコになる可能性も十分にあった。

とにかく僕は、二人に悟られないようにと気を遣い、なに食わぬ顔でおじちゃんに向かって話しかけることにした。

「あの檻がある限り、ダーリンと会話なんかできるはずがないんだ。それなのに、あんな物を食べるなんて、どうかしてるよ」

「そうだね、卓君の言うとおりかもしれない。それにしても、残念だ」

やっぱり光のうそだった。だけどよくよく考えてみれば、当然のことだと思う。大腸菌にそんな大それた能力を期待するほうが、無理というものだ。

「さあ次は卓君の番だ。はやくダーリンに話しかけてみなよ。子どもの君だったら、会話ができるかもしれないよ」

「おかしなことを言わないでよ。僕はフュースのウンコなんか食べてないんだから、会話なんてできるはずがないじゃないか」

こうなったら、きっぱり否定しておくべきだと思った。今の状況から判断して、黙秘権の行使だけではあまりにも不十分な感じがした。

「だって口の周りに、フュースの排せつ物がいっぱいついてるよ」

「ヒクヒク、ヒックック」

僕のしゃっくりは、なんと十六ビートだった。

読むだけでリバウンドしない。 その6
この記事は「読むだけでリバウンドしない方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。「読むだけでリバウンドしない。 その...

スポンサードリンク

読むだけでリバウンドしない。 その6」へ続きます。

もしこの記事を気に入って頂けましたら、はてなブックマークやツイッター、facebookなどでシェアーをお願い致します。 皆さまのシェアが非常にはげみになります。

tumblrへの投稿