読むだけでリバウンドしない。 その7

読むだけでリバウンドしない。 その7

この記事は「読むだけでリバウンドしない方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。

読むだけでリバウンドしない。 その7

読むだけでリバウンドしない。 その1
読むだけでリバウンドしない方法の最初の記事です。読み方は次に指示があるまで、小説を読むような調子で読んでください。気軽に読み進め...

読むだけでリバウンドしない。 その6」からの続きです。

  • またしばらく、小説を読むような感じで気楽に読んでください。

おじちゃんは僕を無理やりハウスから連れ出して、ダーリンに向かって話しかけろと脅しをかける。

無駄であることは明らかだったんだけど、こうなってしまうと僕も弱い立場である。フュースのウンコに手を出したことがばれた限りは、言われたようにやってみるしか仕方なかった。

檻に近づいて、中をのぞいてみる。探すまでもなく、ダーリンのやつはすぐそばにいた。

「はじめまして、相川卓と申します」

とりあえず自己紹介をした。だけどこの怠け者の異星人は、あいさつを返すどころか僕に目を合わすこともなく、涼しい顔で時たまお尻をかいた――本当に失礼なやつだ。

それからしばらく頑張ってみたが、僕とダーリンの間にはコミュニケーションのかけらも生まれなかった。

「だめだよ、ばからしくなってきた」

おじちゃんに向かって吐き捨てた。それを聞いたおじちゃんが、まるで自分のことのように悔しがった。

そのあと僕らはまた、やることもなかったので、ダーリンハウスへ戻ることになった。

「いったい、どういうことなんだろうねえ――」

おじちゃんは首をかしげて、うなり声をあげている。それにしても、これだけ真剣な顔が似合わない人も珍しい。その上僕は、おじちゃんの学歴に関して少なからず疑惑を持った。

こんなに簡単なことが、東亜大学まで卒業しているおじちゃんになぜわからないのか、それを考えると、本当に不思議である。

ダーリンの声は僕らには聞こえない。なのに光だけは会話までできる。こうなったら事実関係は明らかで、まちがいなく、光のやつがうそをついている。

小学生にだってわかる話だったし、僕の家の近所なら、犬や猫でもやつのそばには近寄らない。

「うそじゃないもん」

光はまるで超能力者のように、僕の心を見透かした。うそつきであることはまちがいなかったが、やつには非凡なところがあるのも事実である。

「わかってる。光ちゃんがうそをついてるなんて、誰も思ってないさ」

おじちゃんは独身だけど、一生、独り身を貫いたほうが安全だと思う。普通の女の人は、光と同じような資質にみんな恵まれている。

「僕らにはない能力が光ちゃんにはあるんだ。いや、ひょっとするとダーリンが、光ちゃん以外には話しかけようとしないのかも」

常人にはない能力を光のやつが持っているのは、確かである。だけどそれは、ひきょうでこそくな性格の上に世渡り上手というだけで、そんなものに心を開く宇宙生物がいるなんて、絶対にあり得ない。

「光ちゃん、会話の内容を、もっと詳しく聞かせてくれないかな」

おじちゃんはどこまでも、あきらめの悪い人だった。

「フュースはダーリンのパパだって言ってたよ。それからね、とても仲良しなんだって。だからダーリンはフュースのことを、すごく自慢したりするの」

「そうか――じゃあなぜ、フュースはダーリンを食べたりするんだい」

ハウスの中はいきなり異次元の世界に様変わり、できることなら僕だけは、どこまでも正気でいたかった。

「ダーリンは食べられるわけじゃないんだよ。時期が来たらフュースの中で死ぬんだって、そう言ってたよ」

――そんなばかな、あのフュースがダーリンの棺おけだというのか。

「すごい発見だ……これで謎がなんとか解けそうな感じがする」

どんな謎が解けそうなのか、気にならなかったと言えば嘘になる。だけどおじちゃんの様子がなんとなくおかしかったので、僕は話しかけるのをしばしためらった。

「だから二種類の生物は何万年も共存できたんだ。フュースはダーリンの生を奪ってたわけじゃなくて、死を迎えるダーリンを体内へ送っただけ――」

おじちゃんの様子に、不気味な変化が混じっている。小刻みに震える唇と、ビー玉を磨いたような瞳には、近寄り難いものが確かにあった。

そんな雰囲気に気を遣い、僕は遠慮気味な態度を貫いた。それなのに、光のやつはどこまでも無神経と言ってよく、よせばいいのに、危ない目つきのおじちゃんに向かって声をかけた。

「どうかしたの、おじちゃん」

「別になんでもないさ。ただね、光ちゃんのおかげで、ようやく突破口が見つかったんだ」

案の定、おじちゃんが光のそばで跪き、訳のわからないことをしゃべり出した。

「ダーリンはフュースの体内で、治癒素の塊に姿を変える。しかもそのあとウンコになって、体の外に出るんだ。ウンコはダーリンのエサとなり、新たな生を産む役目を負うにちがいない。それにしても、なんて合理的な関係なんだろ」

前にいる光は訳もわからず首をかしげて、かわいいポーズを取った。

「とにかくさ、フュースがダーリンを食べてるわけじゃなかったから、食べ尽くすなんてことは、あり得ないわけだ」

おじちゃんはそう言いながら、僕に向かってにんまりと笑ってみせた。

「その上この関係には、親子のような愛情がきっとある。すばらしいとは思わないかい。これこそが本物の奇跡だ」

僕はいまだに納得できずにいた。棺おけをパパとは呼びたくないし、ママだってとても愛を語るとは思えない。

「ダーリンやフュースには、いまだに謎な部分が多いんだ。彼らがどういう風に繁殖するのか、それさえもよくわかっていない」

「それをおじちゃんが突き止めたって言うの」

もしそうなら、すごいことだと思う。

「残念ながらそうじゃないんだ。僕は光ちゃんにヒントをもらい、ようやく謎の入り口に立つことができただけだ」

おじちゃんのまなざしは柔らかく、僕と光の顔をじっくりと見比べながら話している。

「フュースの中で死を迎えるダーリンに、なにか秘密があると言うのは、光ちゃんの今の話でよくわかったし、ひょっとすると、彼らはもともと一種類の生物だった可能性まである」

「だけど全然、似てないし」

いくらなんでもそれは、おじちゃんの思い過ごしだ。

「似てるかどうかなんて、さほど重要なことじゃないんだよ。効率よくエネルギーを摂取するために、一つだった体が二つにわかれ、ちがった形に進化することだってある」

訳がわからない――しかも僕がちょっと黙ったすきに、しばらく影の薄かった光のやつが、僕らの話に遠慮なく割り込んできた。

「それよりね、もっと大事な話があるの。ダーリンは泣いてたんだよ。はやく帰らないともうすぐ死ぬって。ここで死ぬのはいやだ。フュースの中で死にたいよって、泣きながらわたしに訴えたの」

それを聞いたおじちゃんは、顔を真っ赤にしながら体を震わせた。

「繁殖するためにはおそらく、ダーリンはフュースの体内で死ぬ必要があるんだ。だから光ちゃんに助けを求めた。地球で死んだら、新たな生命体が生まれることもないんだろう――ああ、僕だって、今すぐにでもダーリンを月に返してあげたいよ。だけど僕にはそんな力なんてない。あまりにも無力だ」

おじちゃんは髪の毛を両手でつかみ、引きちぎらんばかりに振りまわした。

「なにか方法はないの」

僕までのせられて、そんなことばを口にした。

「みんながこの事実を知れば、あるいはダーリンを月に帰してくれるかもしれない。だけどどれだけの人が僕らの話を信じてくれるだろうか。それを考えると、くやしくてくやしくて涙が出るよ」

そう言ったあと、おじちゃんは黙り込んだままで、しばらくうつむいた。そのあと顔を上げて、今度は力のこもった声で僕らに向かって語りだした。

「でもさ、あきらめちゃだめだよね。僕らにできることはたった一つだ。たくさんの人にこの事実を訴えるんだ。世界中の人がこのことを知れば、必ず多くの人が耳を傾けてくれる、そう信じるべきだ。世の中っていうのは、そんなに捨てたもんじゃないし、僕は生涯をかけて、光ちゃんが言ったことを証明してみせる」

力強く、そして熱っぽく、おじちゃんは目をむきながら、僕らに向かってつばを飛ばした。

「それにしても、今ZOOにいるダーリンを助けるためには、あまりにも時間がなさすぎる。なんとかならないものだろうか」

おじちゃんは天井を見上げながら、ため息をついた。

「そうだおじちゃん、東亜大学研究所に連絡を取ればいいよ。おじちゃんが話せばきっと、協力してくれるはずだ」

僕の考えはうまくいきそうな予感がした。誰かに物事を信じてもらおうとすれば、必ず肩書が必要になるし、それが日本で一番の大学ならば、申し分ないと言える。

「連絡はしてみるけど、おそらくは無理だ」

「そうかなあ」

「研究者を動かせるほどの証拠がそろってるわけでもないし、会話できるのが光ちゃんだけでは、話にもなにもならないよ」

確かにおじちゃんの言うとおりかもしれない。光が証人だというだけで、信ぴょう性は確実に下がる。

「ママにテレビで話してもらったら」

僕の意表をついて、光のやつがとんでもないことを言いだした。

「そうか、君たちのお母さんって、ネットテレビ局に勤めてるんだったね。今朝の電話でも確かそう言ってた」

「ママがおじちゃんに電話をしたの」

なんだかいやな予感がした。

「ああ、昨日のことを謝ってくれたんだ。だけど君たちのお母さんが、僕らの言うことを信じてくれるだろうか」

「無理に決まってるよ。ママが信用するはずなんて、絶対にない」

――おじちゃん、昨日のことを思い出したほうがいい。ママはあのとき、まちがいなくおじちゃんの死刑を望んでいた。

「でもあきらめたら、かわいそうだもん。ダーリンはもうすぐ死んじゃうんだよ」

そんなことを言いながら、光は両手で顔を覆ってうずくまる。

「やめろ、僕には泣きまねなんか、通用しないぞ」

それにしても、なんてあざといやつなんだ――だけどおじちゃんは光のうそに免疫がなく、大きく肩を揺らしながら息を吸い込んで、相当、入れ込んだ顔をした。

「わかった。君たちにも、それからお母さんにも絶対に迷惑はかけないよ。僕の責任でネットテレビを乗っ取り、ダーリンを助ける方法を、なんとか考えてみる」

「おじちゃんって、すごくかっこいい」

頼むから、僕だけは巻き込まないでほしい。

読むだけでリバウンドしない。 その8
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