読むだけでリバウンドしない。 その9

読むだけでリバウンドしない。 その9

この記事は「読むだけでリバウンドしない方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。

読むだけでリバウンドしない。 その9

読むだけでリバウンドしない。 その1
読むだけでリバウンドしない方法の最初の記事です。読み方は次に指示があるまで、小説を読むような調子で読んでください。気軽に読み進め...

読むだけでリバウンドしない。 その8」からの続きです。

  • またしばらく、小説を読むような感じで、気楽に読んでください。

「それはそうと、いったいお母さんのテレビ局って、どこにあるんだい」

「F1シティだよ」

光のやつには隠しごとなんて、絶対にできないと思い知った。

「君たちは局に行ったことがあるのかい」

「何回かあるよ」

「中に入れるのかなあ」

「普通の人なら無理だけど、お兄ちゃんならきっと入れるはず」

これはまさしく誘導尋問だった。光のやつはなんでもぺらぺらしゃべる。

「君たちには迷惑をかけないからさ。ぜひ僕に協力してほしいんだ。あとの責任は誓って僕だけで取る」

「だめだよ」

必死に抵抗した。

「無理は承知さ。だけどね、世界中の人に訴えるためには、それしか方法がないんだ」

「すごいすごい、やろうよ、おじちゃん」

人の気も知らないで、無責任にも光のやつがおじちゃんをおだてあげる――なんてひきょうなやつなんだ。

「焦らずに、落ち着いて考えたほうがいいと思うんだ。もっとうまい方法が、必ず見つかるはずだ」

僕は平和な暮らしが欲しかった。

「卓君、僕だって冷静に考えてみたよ。けどね、これはまさしくノーベル賞ものの発見だと言える。永遠に光ちゃんの名前が、歴史に残るかもしれない。それほど重要な使命を、僕らは神様から託されたんだ」

――危険だ。光の名前が歴史に残る? そんなことになったら、いったい僕はどうしたらいいんだ。

有名な妹の兄、そんなレッテルをはられて、まともな人生を送れるはずがない。

光は一躍世界中から注目されて、テレビ局のインタビューを受ける。僕はその横で、光のかばんを持ちながら愛想笑いを生放送。

それを見て、陰口をたたいたりするやつが、世間には至る所にいるはずだ。『同じ兄妹でも全然ちがうわねえ』そんな声にも耐えなければならず、そればかりか人目をはばかりながら、光のあとを黙々とついて行くだけの人生しか残らない。

そんなときふと、僕は昔のことを振り返る。いったい僕の人生はどこで狂ってしまったんだ。そうだあのとき、なぜ僕はダーリンを助けようとしなかったのか。

こうなる可能性は極端に低いが、おじちゃんの学歴がどこか不気味に思えてくるんだから、たまらない。そう言えば、人生にはギャンブルも必要なのかもしれないと、いきなり考えを改めた。

「どうやってテレビ局を乗っ取るつもり?」

とりあえず、おじちゃんの計画くらいは聞いてみようと思った。

「ようやくわかってくれたみたいだね」

おじちゃんは僕の変化を感じ取った様子である。にたりと笑いながら、立ち上がった。そのまま部屋の隅にあるロッカーに近づいて、そこから弁当箱のような物を取り出してくる。

「これを知ってるかい」

さげてきた物を僕らの前に差し出しあと、おじちゃんはなんだか自慢げに、小鼻をひくひくと動かした。

「これはバルゴン、いわゆるパニック系の玩具なんだけど、オモチャと言ってもばかにできないような機能があるんだ。このボタンを押すと無害の煙が吹き出して、みんな火事だと思ってパニくるはずだ」

そう言えば思い出した――バルゴンは一時期すごく流行したが、あまりにも悪質ないたずらが多発し、そのために社会問題となり、確か今では発売中止になっているはずである。

「これをビルに仕掛けて火事を装い、みんなが避難したすきに、世界中にメッセージを流すという筋書きさ」

おじちゃんに期待した僕がばかだった。東亜大学を卒業しているのであれば、もっとスマートな方法を考えると思ったのが大まちがいである。

煙で脅かしてテレビ局を乗っ取るなんて、まるで強盗殺人のような手口じゃないか。そんな肉体労働者的な計画では、とても成功するとは思えなかった。

「ほかに方法はないの。例えばさ、そこにあるコンピューターでハッキングするとか」

「だめだよ。僕はコンピューターには詳しくないんだ」

「IT関係に強い友達とかいないの。その人に頼もうよ」

「いない」

「じゃあ、テレビ局を乗っ取ったとしても、どうやって放送するのさ」

まるで意味がない――バルゴンでいたずらするだけで、終わってしまいそうな予感がした。

「サーバーくらいは、どうってことないさ」

おじちゃんはそんなことを言いながら、こぢんまりとしたまなこをいっぱいに広げ、どこまでも自慢げな表情を隠そうともせず、ゆるんだ口もとから、あとのことばをひねり出した。

「ネットテレビが普及しだしたころね、僕も一度、テレビ局に見学しに行ったことがあるんだ。仕組みは簡単なんだよ。カメラからの映像をファイルに落とし、それを世界中のサーバーに向けて配信するだけだ。一見しっかりしたセキュリティーのようにも思えるんだけど、内部からの操作にはもろいもんさ」

「ねえ、それっていつ頃の話なの」

「確か、五年くらい前かな」

頭が痛くなってきた――IT業界の進歩の速度はジェット機並みで、五年前なんて原始時代とまったく変わらない。

「おじちゃんの計画には、がっかりしたよ」

まるで恐竜がF1マシンに乗り込んで、やたら目立ちたいもんだから、その辺を走りまわってあがいているような感じである。

恐竜ならまだしも、みんなに興味を持たれて、お巡りさんもなんとか大目に見てくれるかもしれないが、僕らにはそんな希望なんてまるで皆無、まちがいなく世界中の人から責められる。

もちろん、ママは恐竜だって許さない。

いくら説得してみても、思いとどまる気配のかけらも見えず、そのうち光までがのんきなことを言いだした。

「おじちゃん、今からすぐに行くんだよね。ひょっとして、わたしもテレビに出演してもいいの?」

なにか勘違いをしている。

「当たり前じゃないか、今回のことは光ちゃんが主役なんだよ。さあ行こう。ダーリンの命を守るため、世界中の人に訴えるんだ」

おじちゃんと光はいきなり両手を突き上げて、「おおお」などという叫び声をあげている。僕もつられてポーズを決めてしまったのだから、群集心理というものは恐ろしいものである。

しかも僕らはなんとこれから、テレビ局に向かって出発するらしい。悪夢としか思えなかった。

最後まで抵抗を試みたがそれも無駄、こうなったらどんな事態に遭遇しようとも、おじちゃん一人で必ず責任を取る、そう約束してもらい、結局、僕も同行するしかなくなった。

ZOOの出口を出ると、リニアモーターカーの駅が見える。

「おじちゃん、昼間から無断で出かけたりしても、仕事に支障はないの」

僕の問いかけに対して、おじちゃんの顔がわずかに引きつった。

「今は仕事どころじゃないだろ。ダーリンの命と人類の未来がかかってるんだ」

おもむろにおじちゃんは光と腕を組みながら、スキップを踏んだ。

それを見せつけられる僕としては絶望感がいっぱいで、いまさらながらに一緒に来たことをひどく後悔した。

どう考えても二人の呼吸があそこまで合うのは不自然に思えたし、当然のことだが、世界を救うコンビにはとても見えなかった。

読むだけでリバウンドしない。 その10
この記事は「読むだけでリバウンドしない方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。「読むだけでリバウンドしない。 その...

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読むだけでリバウンドしない。 その10」へ続きます。

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