読むだけで痩せる。 その1

読むだけで痩せる。 その1

読むだけで痩せる方法の最初のページです。

読むだけで痩せる。 その1

読むだけで痩せる方法
普通の痩せる方法とは、一味も二味も違います。他のダイエットと組み合わせても、効果を発揮します。もちろん、単独の痩せる方法としても、有...
  • 読み方は次に指示があるまで、小説を読むような調子で読んでください。気軽に読み進めてもらえればよいです。

「二人ともなにをしてるんだ。はやく奥の通路から入っておいでよ」

カウンターの向こうから、おじちゃんが僕らを呼んだ。

場所はZOOのダーリンハウスである。

僕と妹の光は、奥の部屋に足を踏み入れた。シミや汚れのたぐいが床のあちこちに付着している。しかも汚れているのは床だけではなくて、壁に描かれたダーリンの絵なんて、やりきれないほどくすんで見えた。

空気までがほこりまみれのように感じてしまい、僕はなんだか、息苦しくてしかたがなかった。部屋の広さは僕らの子ども部屋と、同じくらいである。

正面には大きな窓が見えた。汚れたカーテンがそれを覆っていた。壁際にはテーブルが設置してあり、その上には小型のコンピューターと、十七インチくらいの薄型のモニターが並んでいた。

「チョコレートのにおいがするよ」

光が主張するとおり、部屋中に充満しているこのにおいは、まさしくチョコレートのものである。甘すぎる香りが鼻孔の辺りを刺激して、こらえきれずに僕は何度かくしゃみをした。

「似てはいるんだけど、これはチョコレートが発しているにおいじゃないんだ」

おじちゃんが光に答えている。

「じゃあいったい、なんのにおいなの」

どうやら光の好奇心は全開である。相も変わらず、頭のてっぺんから怪しげな音を連発した。

「ダーリンにはなくてはならない物、それがこのにおいの正体さ」

「なんなの、それは」

「詳しく説明してあげるからさ、二人とももっと、こっちへおいでよ」

おじちゃんは部屋の隅にある、プラスチックの容器の前に立ち、そこから僕らを手招いた。

「このにおいはね、ここにある物質から放たれてるものなんだ」

おじちゃんの声は低かったが、動作のほうはやけに大げさで、ぐるりとまわした右手をふたにかけ、それを一気に持ち上げた。すると甘いにおいはいっそう強くなり、そのせいで僕のくしゃみは余計にひどくなった。

「なによこれ、やっぱりチョコレートじゃないの」

光のやつは箱の中をのぞき込んだ。そのあと真っ赤な顔で訴えた。乳白色の容器には、チョコレートを溶かしたような物がいっぱい詰め込んであった。大きさはもしも空っぽだとしたら、光を閉じ込めるのにちょうどいいくらいの容量である。

「ひょっとして、ここってチョコレート工場だったの」

光のやつは結構、楽しげな声を出している。目を輝かせながら、おじちゃんの顔をじっと見つめていた。その様子から判断する限り、おそらく光のやつは目の前にあるチョコレートを狙っているにちがいないと予想した。

そこで僕は重要なことに気がついた。

なんと今日の光は、一張羅の洋服を着込んでいる。もしも今の状態であの箱の中に両手を突っ込んで、目的の物をむさぼり食うような事態にでもなれば、残念ながらピンクのかわいい洋服は、色を変えるどころか、生地でさえも化学反応を起こすにちがいない。

しかもそうなったときのママの顔が、むやみやたらと角膜の裏で点滅した。

「これはね、チョコレートみたいに見えるんだけど、実はそうじゃないんだ」

「チョコの親せきのシュガーちゃん?」

二人は人の気も知らないで、能天気な会話を始めている。僕はたまらず抗議した。

「ねえおじちゃん、もうそれくらいでばかな冗談はやめてほしいんだけど」

「ごめんごめん、少し調子に乗りすぎたかな」

おじちゃんには反省の色も見えたが、光のほうは相変わらずで、口をとがらせながら、なおもおじちゃんに食らいついた。

「はやく白状しなさいよ」

「わかったよ。ただしね、これは一般の人にはあまり知られていない事実だし、それを知る機会に恵まれたのはすごく幸運な体験だと思うんだ。だから君たちは、いつまでも未知の物への興味を失わないでほしい。約束だよ。それだけが僕の望みだ」

本当におじちゃんの人間性を知れば知るほど、がっかりさせられる。だいたい、感謝の押し売りっていうやつが一番、始末が悪い。それを平気で口にできる、おじちゃんの性格には明らかに傷があった。

光のやつは素直な態度で、おじちゃんの言うことにうなずいている。こちらも予想どおりである。やつは目的のためならなんでもする。

僕は多少の抵抗もあったんだけど、しかたがないので光を真似て、おじちゃんのことばに同意した。

「よし、じゃあ教えてあげるよ。実はね、これはダーリンのエサなんだ」

目の前にあるチョコレートに似た物質の正体が、ついに明かされた。普通なら、この事実で僕の心配は消えうせるはずだった。いくらなんでもダーリンのエサだと聞かされれば、光のやつだってあきらめるだろうと思うのが、常識的な考え方である。

ところが僕の場合は少しちがっている。隣のマンションで飼われている、ミケという猫が食べているキャットフードを、光のやつが狙っていることを知っているからだ。

「ほらほら、こっちに来てあれを見てごらん」

おじちゃんは窓のカーテンを開け放ち、そこから見えるダーリンの檻を指さした。

「檻の横に丸い注入口がついてるだろ」

そんなことを言いながら、腕を伸ばして引き出しの中を探り出す。引き出しの奥から牛乳ビンのような容器を取り出して、それを顔の横に据えたままでにたりと笑った。

「これにエサを詰め込んであそこに差し込めば、檻の中にダーリンの食料が流し込まれるような仕組みになってるんだ」

確かに檻の横には金色に輝く突起物が見える。どうやらそこに、太い注射器のような物を差し込んで、檻の中にダーリンのエサを注入しているらしい。

「だけどあっと驚くのは、まだまだはやいよ。これからが本番さ」

おじちゃんは部屋の隅に置いてある段ボールの箱を、こちらへ引きずってくる。

「さあ二人とも、ここに座ってごらん。もっとびっくりするようなことがあるんだ」

言われるままにそこへ腰かけた。するとおじちゃんは乳白色の容器を指さしながら、得意げな表情を隠そうともせず、僕らの前で熱弁をふるい出した。

「では始めるよ。これはいったいなんだった?」

「双子のチョコレート」

光はいまだに、能天気な頭しか使おうとはしない。しかたがないので、僕がかわりに答えてやった。

「あれはダーリンのエサだろ」

「惜しい」

おじちゃんが意外な反応を見せたから、今度は僕が唇を突き出しながら、抗議した。

「だって、さっきおじちゃんが、そう言ったばかりじゃないか」

「確かにそれはそうなんだけど、厳密に言えば少しちがう。例えばね、大根は人間の食べ物だよね。だけどそれを大根とは呼ばずに、あれは人間の食べ物だと呼び続ける人がいたとしたら、やっぱりそれはおかしいだろ」

それはそうだ。

「ここにあるチョコレートに似た物質は、確かにダーリンのエサではあるんだけど、本質的な呼び名と言うのか、本来の識別名は別に存在するんだよ」

引っかけ問題みたいな論法だった。常識的な事柄はたいてい足もとがもろく、意外とすぐにひっくり返せるし、僕は人間だけど相川卓という名前も持ってるわけで、そんな誰もが知っているようなことをわざわざひっぱり出して、子どもをだますような論理を展開するなんて、とても大人のやることじゃない。

「おじちゃんの意地悪、はやく教えてよ」

光がこらえきれずに叫び声をあげた。それに応えておじちゃんがにんまりと不気味な笑顔を作る。どうやら僕らのじれた態度に、ひどく満足している様子だった。

「実はね、このダーリンのエサは――んーっ、なんだと思う?」

おじちゃんはどうやら、一種の興奮状態である。その態度をつぶさに見せられて、僕は少し心配になった。ひょっとして、この人は大人が相手でもこうやって小出しに話を進めるのだろうか、だとしたら、友達は極端に少ないタイプだと思った。

「君たちにはこのエサがいったいなんであるのか、まるで想像もつかないだろうなあ。ただしそれも当然の話さ。詳しいことを知っているのは、世界中でも限られた人間だけなんだ。しかもこのエサの中には数学で言えば無限が存在し、科学では不可能を解く鍵が隠されている」

訳がわからない。

「おじちゃん、いい加減にしないと、ほんとに怒るよ」

さすがの光でさえも、おじちゃんの態度には我慢できなくなったみたいである。

「ごめんごめん。それじゃもったいぶらずに、そろそろ教えてあげるね」

いいや、これだけもったいをつけたら十分だと思う。

「なんとこの物質の正体は、月に住むもう一種類の生物、フュースの排せつ物なんだ」

それを聞いたとたん、僕は不覚にもあっと驚いた――排せつ物と言えば、ウンコのことじゃないか。

「どうだい、すごいだろ。彼らの食料にはまだちょっとした秘密があるし、現在のところ、一般の人には漏れないように、マスコミが自主規制してるんだ」

今の話を聞いて、僕の中でダーリンのイメージはこれでもかって言うくらい失墜した。ウンコにだけは手を出してほしくない、というのが僕の正直な感想である。

「驚くべきことなんだけど、ダーリンやフュースには、大気に含まれる酸素なんて必要ないんだ。フュースの臓器は自ら光合成を行うことによって、酸素に似た物質を作り出すことができる。学者たちはそれに治癒素という呼び名をつけた。しかもそこには栄養分まで含まれてると言うんだから、われわれ人類の科学なんて仰天ものさ。生きるために必要不可欠なすべての物を、フュースはなんと、自分の体内で製造してる」

僕にはおじちゃんがなにを言いたいのか、さっぱりわからなかった。だけどおじちゃんの様子から判断して、話の腰を折るのは気が引けた。

浅黒い顔の中でこぢんまりと光る二つの目は、僕らに注目しているように見えて、実は視線がちがう場所へやたらと飛んだ。自らの世界に浸りきったその態度からは、おぞましいほどの迫力すら感じさせた。

「いいかい、彼らが実に神秘的、かつ合理的な生物だと断言できるのは、フュースの排せつ物が、治癒素の塊でもあるという事実だ。だからそれを食べるダーリンも、酸素や栄養分をまったく必要としない。と言うよりも、エネルギーを直接、食べてるようなものなんだ」

「じゃあ、フュースはいったいなにを食べるの」

不思議なことなんだけど、僕でさえよくわからない話に割り込んできて、光のやつが無謀にもおじちゃんに対して質問をした。

「う、うん、それが――」

しかも光のことばを聞いたとたん、おじちゃんの態度が一変し、僕らから顔を背けて後ろを向いた。

「どうしたの、おじちゃん」

光が呼びかけても、そわそわと落ち着かない素振りを繰り返すのみである。そのうち「うぅん」なんてうなり声をあげながら、腕を組んで考え込んだ。

「君たちにはやっぱり、明かさないほうがいいんだろうか――」

ここまでくるとおじちゃんを見直すしかなかった。もったいぶる演技も堂に入ったもので、今なら誰もが話の続きを聞きたくなるにちがいない。

「ぜひ教えて下さい」

思わず声に出して訴えた。

ダーリンがフュースのウンコを食べるんだから、僕の予想では、そのダーリンのウンコをフュースが食べるというのがきわめて濃厚である。

だけど自分のウンコを食べる可能性にしたって、まったくないとは言い切れず、そこまで栄養分のあるウンコなら、おそらく貴重であることはまちがいないし、超えてはいけない一線を、むやみに犯している可能性も十分にあった。

「しかたがないね。ここまで話してしまった以上、君たちだって、あとの説明を聞かずに引き下がることなんてできないだろうし、軽率にも知識欲を刺激した僕の責任は、やっぱり重大だ。こうなったら全部、話してあげる。だけどこれは絶対に内証だよ。誰にも言わないと誓ってほしい」

「うん、約束するよ」

光はあっさり一言で片付けた――うそをつけ。

やがておじちゃんは僕らの前で直立不動、口もとの笑みもすっかり消えて、力なくまぶたを半分、閉じた。黙ることおそらく十数秒の猶予があり、今度は僕らを強い視線でにらみつけた。

読むだけで痩せる。 その2
この記事は「読むだけで痩せる方法の原稿」です。その1から順番に読む必要があります。この記事は「読むだけで痩せる。 その1」からの...

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